おそらく筆者は技術屋(専門技術は無いから技術周辺?)としては最も面白い人生を歩かせて貰っている。今もそうで、syo-ene はその1Phase に過ぎない。
標記は適当な言葉遣いではないが、当人としてはその様にしか感じられない経験を何度もしているので触れてみたい。「なんだ、あること無いこと滔々と」と思われたら飛ばしてもらって良いが、受けようと無理をしている所はあるが、内容はこれでも控えめである。
*** GE系油圧制御 ***
GE系の油圧制御との縁は、社会に出て直ぐだった。
当直に配属され、先輩の講義を拝聴し現場パトロールに同行する。員数外半人前。
タービンの上に昇って、「これが、さっき説明した蒸気加減弁だこれが第1、こっちが第3」
「なるほど、ところで第1加減弁のローラーがカムに乗ってないんですが」
加減弁の開閉制御は、スプリングの力で閉まろうとする弁シャフトを、油圧機構から駆動されるカムが回転してローラーを押し上げスプリングの力に押し勝って加減弁を開くようになっている。
従って、加減弁が開いているのに、ローラーとカムの間に隙間があるはずが無い。
もちろん弁が全閉以下のときは、カムはずっとバックしていてギャップは出来る。
事実、第3加減弁は全閉のため隙間があるが、第1加減弁は起動時最初ッから開いているはずであり、ここに隙間はあり得ない。
講義のときシンプルだがうまく出来ているなと感心して拝聴していたので、その理屈に合わないことが出てくると、こだわりたくなる。
「これはどこかおかしいですよ」
ところが先輩の方が黙り込んでしまった。
これが正常で、自分の理解のしかたがどこか違っていると考えているみたい。
中央制御室に戻ってオペレーターに報告するが、なんせこちらは入ったばかりの新米、研修中の身。当直長も現場を見るが信じてくれない。
やがて、初期運転も落ち着いてきていたので、徐々に引上げ準備を始めていたメーカーのスタートアップが顔を出し、
「ああこれは、加減弁がスティクしてますね、解除するには加減弁を大きくスイングする必要があります」
高圧蒸気の内部と外部の貫通部は蒸気の漏れ出しを抑制するため、非常に小さな間隙のラビリンスになっているが、そこにスケールが噛み込み弁がスティックして動かない状態だと言う。
指令所に出力変化を要求し、増減出力を何度か繰り返すと加減弁の動きはスムーズになりやがて、ローラーはカムに鎮座ましました。
*** 偶然の妙 ***
その2年後、新号機に初めて、それも何気なく行った日に不具合に遭遇した。
その日は、だれかの休暇の代直で、お客だから軽く1号ボイラーパトロールでいいよと言われた。
「そういえば2号の現場まだ見てないな、これから長い付き合いだから挨拶に行こう」と思い立って早々に1号ボイラーのパトロールを切り上げ、そのまま何故か2号タービンを廻り始めた。
主蒸気止め弁からタービン本体下の加減弁点検架台を昇って近づくと、普通と少し違う音がする。
1号タービンと音響が違うのかなと思って聞いていたが数十トン3000rpmの本体の騒がしい回転音の向こうに、僅かな蒸気漏れのような音。
タービン入口蒸気は167kg/cm2、566℃ (1050゜F)「蒸気漏れがわかっても絶対近づくな」これ鉄則。この温度では保温の中の鉄も真っ赤、蒸気も霧にならず目に見えない。
聴診棒にウエスを縛り付け、突き出しながらリーク音のする方に恐る恐る昇っていくと、加減弁室温度計取り出し辺りで、ウエスがたなびく。
さぐっていると、高温蒸気のせいでたなびいている白い布がたちまち褐色に炭化してくる。
「蒸気リーク、間違いないっ!!」
オペレーターに連絡→皆で確認→メーカー連絡→停止手続き→クーリングダウン→タービン停止→更に数日かけて冷却。
調べると温度計ウェル溶接部 (10年前のもんじゅの事故と同じもの、もんじゅはナトリウム漏れこちらは蒸気、深刻さのレベルは全く違うが) にクラックが入っていた。
一段落して、課長代理がきて「表彰したいんだが、10分前に本来のパトロールが通った後なので、表彰したらそっちを罰しなければならない、今回は勘弁してくれ」、毛頭期待してない。偶然の妙を楽しんでいるだけ。
だって、正直 (筆者の性質のことじゃない。本来の当直勤務のこと) ではオペレーターだったから、暫く現場には行かない。これが偶然一つ目。
1号ボイラーからなぜか2号タービンに行きたくなる偶然、これが2つ目。初めて新号機に行ってという偶然、3つ目。
*** 指示者・被指示者・修理担当 ***
ついでに蒸気サイクルの給水過熱器について。
タービン復水器からボイラーエコノマイザーまでの給水系統は、復水器ホットウエル→復水ポンプ→低圧給水加熱器→脱気器→給水ポンプ→高圧給水加熱器→ボイラーとなっている。
給水加熱器はそれぞれ2系統あったが、あるとき所長がやってきて、「日報で見ると高圧給水加熱器出口の温度指示に2系統で差がある。異常じゃないか」とのご指摘。
たしかに280℃以上の温度にA系B系で数℃の差があるのは気づいていたが、通常そのような差が出ることは考えられないので、温度計の水銀が飛んだか何かだろうと、勝手に判断してずっとめくら判を押していた。
「本体に異常があるのではないかという観点で調査せよ」
温度計を交換したが、差はついたまま。
温度計がウエルにちゃんと収まっているか確認するが、問題なし。
これは本物かなあと思いつつ、高圧給水加熱器の片肺運転、途中の抽気(蒸気サイクル効率改善のため、タービン内で仕事途中の蒸気を部分的に抜取って給水の加熱に使う)を色々なパターンで停止するとヒートバランス計算で8台の高圧給水加熱器のうちのひとつが充分に機能してないという計算になる。
本来、そのような事態になれば、抽気のドレン(復水)量に変化が現れ、ドレン調整弁の開度からも異常が発見できるはずであり、これに変化が無いためめくら判となった部分もあったが、後で反省すれば、ドレン調整弁ポートにはスケールの付着が進行し、ドレン量と弁開度は必ずしも一致しないことがあることを失念していた。
その悔しさもあって、原因は給水仕切板穴明きによるショートパス。穴の大きさは計算で直径32ミリとまで断定してレポートにまとめた。
その次の定期点検 (定検) 時に水室を分解し、点検したところほぼ算定した通りの大きさの穴明きが発見されたらしい。
その10年後、勇退された所長のご自宅に時々のみに行くという先輩がいて「昔ヒーターの穴明きを見つけた」と自慢話を聞いたという。
一度いっしょに行きましょうということで2人で酒壜かついで訪問し、昔話を始めたらやはり出てきた。
「高圧給水加熱器の温度が違っていて、穴あきだとの確信があり、定検であけて見ろと指示した。分解するのに1千万円かかると、補修課長と運転課長が2人揃って猛反対したが、頑としてやらせたら思ったとおりの穴が開いていた」
「そうでした、そうでした、あの時所長のご指摘で、調査させてもらったんでしたよね」
尊敬する先輩だったので精一杯気を使ったんだが、その配慮、成功したかな?
これを聞いてやっと納得した事があった。
「計算では穴が開いていることになるが、本当のところはどうか。水室が開く当日は、溶接部がカットされ仕切り板が現れるのを、今かいまかと手に汗を握りながら待っていた。大砲のbreechのような(当然直径だけは、大和の主砲より一回り大きい)水室が下ろされ、現れた仕切り板は、おおどういうこと。計算どおりの直径の穴が開いていて、やったぁ。思わずVサインでついでにレポートまで持ってきて、物証と一緒に写真に納まった」なんてことは全くない。
途中で、このトーンはおかしい、いつものペースじゃないと気付かなけりゃ読者として本物じゃない♪。
レポート出したらもう終わり、間違ってたらどうしようなんて少しも心配しない、というか興味が無くなる。だって、温度指示が正しかったら、学校で習った理論どおり計算して、それしか有りえないんだもの。
定検に入って2,3日たった休日、寮の鉄棒にぶら下がっていたら、補修課の担当が来たので、
「そう言えばヒーターの水室開けた?」
「うん」
「仕切り板穴開いてた?」
「うん」
「計算どおりの大きさ?」
「うん」
「Thank you, you've been helpful.」
その時はずいぶんつっけんどんなリアクションだなと思ったが、今気付いた。つまり彼は空けるのに反対した補修課長の部下であり、自分の仕事。一緒になって反対したか、もしかしたら反対の筆頭者。
嫌々開けた結果がレポート通り。相手に下るのは面白くない。
*** ドレン量と弁開度は必ずしも一致しないことがあることを失念 ***
知らなかったのに恰好つけてるわけではなく、本当に失念していたのである。
そのちょっと前に、高PH環境・高圧で、Feイオンを含む高温水が、調整弁ポートを通過し膨張する時、イオンが酸化鉄となってポートの下流側に析出する問題などを、電気現場技術という雑誌の執筆依頼で書いたことがあり、頭には入っていた。
依頼の題名「給水加熱器の保守点検の実際」
執筆依頼が名指しで来るほど有名じゃない、当たり前。会社に来た依頼が、最終的に当事業所の当直から日勤に出たばかり、29歳の若造のところでルーレットの針が止まっただけのこと。
当所の給水加熱器は管板からの漏洩、ドレンアタック (抽気が復水に戻ったときに加熱管にぶつかり管を侵食する) による漏洩が多発しており、聴音による判定などはお手の物。4,5人で聴診棒で聴いて、チューブ漏洩の有無で間違った判断したことない。
修理の方も会社の中では経験豊富だろうで白羽の矢。
そしてあいつが相応しいだろうと、上からご指名選任されていた執筆予定の大先輩に突如の昇格転勤辞令。交代で日勤に出ることになった筆者にお鉢が回ってきた。但し修理担当と連名。
次のような内容で升目をうめて原稿用紙27枚プラス図表つき、原稿料3千円か5千円。
○ 高圧給水加熱器チューブ漏洩の検出方法
○ ドレンアタック対策の具体例
○ 縦型給水加熱器管板補修の問題点
○ 低圧給水加熱器真空側空気吸込みトラブルと発見方法
○ ドレン調整弁絞りによる溶存鉄析出の問題点
締め切り間際に鬼怒川レクレーションがあり、東武特急車内で原稿書上げ(本当にしらける奴۵)の台にするため原稿料を当てにして買ったのが現在のアタッシュケース。以来、海外・組合を問わず旅行のお供は何時もこれだけ。この間はワイン1本入れて長岡に。
海外ホテルのパジャマ代わりの浴衣、スリッパ、ドライヤー+電源プラグセット、髭剃り、着替え全て入ってしまう。勿論帰りのカミユのブックプラチナ3個は入らないので別途紙袋。
原稿料では足が出たが、30年間使ってもと取った。
しかし、会社もこんな若造にそんな原稿書かせて大丈夫だと思ったんだろうか、失敗したら世間に恥かくところだった。
その後「成功してよかったけど」とつなげたいんだが、実は本に載ったの見てない。原稿料も間違いなく貰ったし、共同執筆者は雑誌を入手したと言っていたが、自分は仕上がり見ていない。
終わったことは、あまり気にしない。普通は記念にとって置くんだろうけど。
これで「失念」。または頭だけの理屈で「応用できなかった」。
*** 骨董品在庫一掃セール ***
長崎の孤島の電気設備のお守りをした。
アンローダーが4基あり、横行・回転は単なる交流モーターだが、アームとバケット(1掴み10トン)の巻上、前後進、開閉はミニコン+リレー+レオナードのハイブリッドで制御され、オペレーターのレバー操作でコントロールできるようになっている。
ところがこれに、原因不明のトラブルが多発した。
すぐ動かなくなったり、不要な動作をしたりする。
運搬船は日本郵船の6万トン船で、これをほぼ3日で揚げるスケジュールだが、万が一アンローダーがトラブルと遅れが生じ、そのペナルティは滞船料1日300万円。滞船料は当然荷揚げ業務を請け負っている協力会社に負担がかかる。
したがって、トラブルは直ちに担当筆者に連絡が入り、おおよその状況を聞き、オシログラフなど点検機材をアンローダー電気室まで運びあげる。
これだけでも一仕事。
そしてオペレーターに故障の内容を詳しく聞くが、現地採用の人が多く、レアーな九州弁でかつ興奮してまくし立てられると、ヒアリングできないところも多い。
制御装置もハイブリッドで入り組んでいて何処がトラブルの第一原因か突き止められない。
ミニコンプログラム、オシロ波形を解析するが原因不明のまま正常に復帰したりする。
何時までも直らず、時間だけが経ってくると、後ろに7、8人の協力会社社員の人ぶすま。
無言、有言、九州弁のプレッシャーがかかる。
どうしても判らないと、メーカーに確認するが、携帯の無い時代。電話は事務所、アンローダーとの連絡用ページング装置を介して、隔靴掻痒のやり取りをする。
システムはT社製で、相手は東京府中。
「直ぐ来てくれ」といっても航空チケットを取って、船でも渡るから1日半はかかる。
従って、自然直営補修が主となり、ユーザー技術の重要さを身をもって嫌というほど思い知る。
休日に長崎に出ようと山の上から事業所を見下ろし、入船してないか4基のアンローダーが忙しげに働いているとホッとする。
ある時ふと何気なくアンローダーに登って、正常運転中の制御装置の挙動をじっと見ていると、リレーの中にチャタリングと間違えるほど、激しく開閉動作をするものがある。
良く見ると、それらだけ接点廻りに微細な銅紛も付着している。
ブレーキソレノイド駆動用についている容量増幅のためのリレーである。
その動作を再度ミニコンに信号として取り込んでいるため、接点が荒れるとミニコン動作も不安定になる。
同様機能のリレーをリストアップしたら1台当たり24個程度、計100個。筆者 (新米課長代理) の決定権限50万円相当購入し、無条件に全て交換したらトラブルは解消した。
事業所は出来て4年目だったのでレオナード制御も意外だったが、ミニコンのメモリーがコアーだと知った時は心底驚いた、T社の骨董品在庫一掃セール買わされたんじゃないか。
*** 腰抜け2丁拳銃 ***
共通コントロールセンターという母線は電圧は440Vと低いが、一般的に受電先が事務所や通信、補助油ポンプ、消火ポンプなど共通かつ重要なものが多く、ここの停電作業は補機をあらかじめ別系統から受電しておくなど準備が大変である。
保安規定無視の確信犯か۵ しばらく点検していないことに気付き準備を始めた。
切り替え時の短時間停電なら許せるが、8時間の連続停電は許容出来ない受電先十数か所を、仮ケーブルで他の母線に繋ぎ替える。
仮ケーブルといっても、電圧が低く容量が大きいためケーブルも太い、100sq以上のがゴロゴロ共通コントロールセンターを中心に広がる。
布設も接続も重労働。
1週間かけて準備していざ当日、順次停止していって、事務所電源を止めようとすると客が来た。
総務から連絡されていたが、出来たばかりの長崎の中国領事が土曜日にわざわざご来所。
公式行事でもなく、アンローダー積荷の関連か何かで来所のこととて、所長以下最少人員で対応し、先に進めていた共通コントロールセンタ停電作業も予定通り実施するという方針だった。
ところが、中国領事の周りに一杯張り付いている、赤いネクタイで鋭い目つきの人たち、
「事務所停電は困る、警備に責任が持てない」
「後から来たそっちが悪い、天気も良いし明るいじゃないか。島にゴルゴが現れたという情報は無いし、ジャッカルはパリでルベル警視に射殺されたはずだ」
なんてとても言える雰囲気ではない、懐にチャカ呑んでる。
こっちは丸腰、実力行使になったら絶対勝ち目は無い。
昔、早撃ちの練習した記憶はあるが、ボブ・ホープ【腰抜け2丁拳銃】やタイ・ハーデン【バルジ大作戦にも】の西部劇を見てのイメージトレーニングが主だったし、fanning で命中率もイマイチ、子供の時の事でそれ以来やってないから、めっきり腕も落ちてるだろう ۵
「停電は来週にして下さい」
次の週は来客も無く、停電の邪魔はない。
メガー測定すると、ある線はゼロ、危機一髪。
また、揚炭桟橋の受電盤はウエスで拭くとかえって悪くなる、拭けば拭くほどメガーは落ちてくる。
作業終了時間は刻々と迫るが受電できる状況にない。盤を開けた時、粉塵でかなり黒かった。「そうか」
ウエスで、かえって微粉の汚れを広げているんじゃないかと思い立ち、軍手を脱ぎ、率先して素手でケーブル被覆表面の汚れを揉むように拭い取っていく。
作業員も見守っていたが、同じ様に頼むとメガーは瞬く内に回復した。
*** 呼吸器疾患は? ***
古い設備では、直流回路のマイナス・ケーブルに粉塵が長い期間に亘って付着し、堆積しているのは知っていたが、唐突に中央制御盤のバックヤードを中心にして直流回路のケーブルに同様の症状が発生し始めた。
粉塵の発生原因がなかなか掴めなかったが、各担当で近年特別な変更をしたことが無いか調べると、1年程前、建築担当にて制御室の空調加湿水を純水から、原水に変更したことが判った。
加湿装置が加熱蒸発式であれば、水中の混濁物質は缶内にスケールとして残るだけであるが、超音波微粒気化式であったため、混濁物質が微水粒中にキャリオーバーし、水の気化に伴って単独で空気中に浮遊し、長期間に亘って直流回路に付着したものであることが判明した。
制御シーケンスはほとんど直流であり、ケーブルの被覆にちょうど理科の時間に磁石に振りかけた鉄粉を細かく白くしたような具合で、混濁物質が付着している。
ケーブル被覆のは飛散しないようにふき取ればよいが、問題はリレー接点に付着している場合である。どんな重要な回路に付着したか外見での点検は不可能。
緊急時に接点はONしたが、接触抵抗が大きくて次の重要リレーをドライブできず機能が働かないことを想像すると、ぞっとする。
しょうがない。リレーテスターを購入し、接点の接触抵抗を測定して、多くは無かったが規格外のものを交換した。
但し、何百個ある全てのリレーを試験するわけにも行かないで、アクリルの透明ケースに穴明きのある接点が明らかに外気接触のものは全数、ケースで密閉型のものは抜取りチェックとした。
更に当該制御室シーケンス全回路について、接点接触不完全の場合のシーケンス挙動解析を行い操作員に注意喚起した。
「この回路のこのリレー、万が一接触抵抗が大きいと、このスイッチ操作してもこれが動かない場合があるので言ってきてね」
結果としてこれに起因するトラブルは発生しなかったが、今反省すると、機械はトラブラなかったが人間の呼吸系統は大丈夫だったんだろうか。
*** 肺炎なら直ぐ治る ***
リレー接点の接触不良も怖いが、直流接地もそれ以上に怖い。
不完全接地なら抵抗にもよるがまだ余裕がある。完全接地が出ていて、更にもう一箇所接地したら大切な直流電源の短絡か、そうでなければリレーを不要に励磁し、重要なインターロックを動作させる可能性がある。
東シナ海の暴風雨のあと2,3日後、不完全接地がよく発生し、判る範囲で雨水浸入防止対策を強化したが、たまに完全接地も起こり、たしか東北電力関連会社が開発したという接地検出器を購入した。
直流回路は高抵抗接地しているため、健全な時はP極は対地間+50V、N極は対地間-50Vであるが、完全接地すると接地した方が対地間0Vとなる。
ブレーカーやヒューズで切っても支障の無い回路があれば停止してみてそれで直るようなら、その範囲に接地箇所がある。
調べる範囲の適当なところ、普通は大もとに880Hzオーディオ波形を印加し、トレーサで順次サーチしていく。
完全接地だと、接地している方向と、してない方向の分岐点で音の大きさが違うので、ケーブル敷設方向がわかれば、確実にたどっていける。
これで、給水ポンプ駆動用タービンのトリップソレノイドのコイル内部接地をトレース発見したことがある。
何故か米国製のソレノイドで金属片がコイル内側に食い込んでいた。
対地間電圧 40,60V 程度の不完全接地だと分岐点での区別が付かない。従って、
「接地箇所を知りたいんなら、せめて対地間 20,80V 位まで悪化させてくれ。そしたら1時間もあれば突き止めてやる」と豪語していた。
このせりふ前半、お笑いなのわかるよね。
医者が「風邪は治しにくいが、肺炎なら直ぐ治してやる」というのと同じ。
*** 鬼人 ***
技術的に色々な問題を経験すると、ヒューマン的要素が大きなウェイトを占めていることに気づく。
ローター持ち出した定検の時、発電機全分解、固定子の絶縁劣化測定、水素密封油のローター軸シール部修理の作業が重なり、3つの作業の指導員は営業に頼んで全て指名させてもらった。
3人ともT社のその仕事ではトップで、安心して任せられた。そうじゃなきゃ、ローター修理の件もあり、やってられない。
特に発電機組立ての指導員が凄まじかった。
発電機は300トンの重さがあり、組立の最後にこれとタービンをセンターリング (軸中心を合わせる) するが、許容誤差は百分の何ミリ。カップリングフランジの上下左右4方の外周と面間でこれ以下に収める。
ダイヤルゲージの数値により、作業員が100トン油圧ジャッキをいくつもかませ右に、左に発電機をふるが、なかなか収まらない。
その時、件の指導員「みんな下がってろ」と作業員を全員退避させ、大ハンマーを大きく振り上げ、発電機をドカンドカンと2,3回どついて測ったらぴったり許容値内。
鬼人神をも動かす。
プロの技に惚れ惚れした。
「一度に、T社の発電機屋の錚々たるトップ3人揃えちゃった」と酒の席で言ったら笑っていたが、この人はその後、途上国にスタートアップで行き、海水浴中に急死したと聞こえてきた。
*** 癖に۵Ⅰ ***
揚運炭コンベアの数百kwのモーターが接地した、モーターはH社製で遮断機はT社のVCB(真空遮断器) とくれば、古い経験者はニヤリとするかも知れないが (もう居ないか) 互いに責任のなすりつけあいが始まる。
「うちのモーターは弱くない。VCBは電流入り切りのスピードが速いから、大きなサージ電圧が発生し、コイルを痛めつける。それが積み重なって絶縁が破れるんだ」
「サージが問題になったのは、VCBが世に出たころの話。うちのVCBにはちゃんとサージキラーがついている、異常電圧など出るわけがない」
揚運炭コンベア系の10台以上の同種モーターが同じシステムで毎日稼動している。何時までも両者の言い合いを「そうかそうか」と聞いているわけには行かない。
当事者と言うことで、T社に格安で測定システムを現地に急遽セッティングして貰い、サージを測るが問題のある波形は出てこない。
そうこうしていると、補修課長から「おかげで今年の修繕費余りそうだが、だれか使いたいパートはないか」という、これも絵に描いたような展開 (本当なんだって)
「はーい」手を上げて、1千万円で同じモーター十数台、コイル巻きなおしてランクも上げちゃった。
台風一過、まだ湿度100%の環境下で発電機界磁接地警報が発報した。
点検すると界磁回路整流器サイリスタ・スタック内部で小さなコロナが無数に発生している。分解清掃を要する。
メーカーに、取説には運転中スタックを1個ずつ引き出せると書いてあるがユーザーがやっても良いか確認する。
「技術員が行くまで待ってください」と言われるが、そこが九州の外れ、それも孤島の悲しさ。待ってられない。接地警報出っ放し。
運転中の発電機の界磁回路のサイリスタ・スタック66個を2日がかりで順次取り出し、分解・清掃・筐体水洗・ふき取り・乾燥組み立てて事なきを得た。
このとき運転中の界磁回路からのスタック着脱は全数自分でやった。
「何かあった時の責任は俺が取る」なんてかっこいい理由じゃない。部下や作業員を信頼してない訳でもない。
あえて言うなら「こんなスリルある面白い作業、人に取られたくない」
*** 末慮国の倭人 ***
長年発電機組立てをやってきたというH社指導員が、何度か来てくれた。
定年も過ぎたが、2007年問題もあり (20年前からあった) 、嘱託で頑張っていると言う。
発電機には運転中は冷却効率の良い水素が封入されているが、定期検査中は水素を抜きとり外気と触れ合っている。
東シナ海の風雨をもろに受ける立地条件もあり、若い人の提案でその間ずっと四六時中温風を機内に吹かして、少しでも湿気による絶縁劣化を防ごうとしていたり、色々なアイデアで設備の保全に努めていたこちらの技術屋の誠意を感得するのか、最後の仕事だという別れの時、
「この年になると発電機の1台1台が我が子のように思える、皆さんはそれを大切に扱ってくれていてありがたい。私はもう来ないが今後とも末永く可愛がってやってください」
との挨拶にはジンときた。
・・・補修関連協力会社に「末永」という名前の、松浦 (魏志倭人伝の末慮国) 出身の若手がいた。(この流れ、自然に出てきて驚いている)
ある時博田駅前の九州支社にいたが、現地で緊急出力減をしたという情報。
状況を聞くと、ボイラーの誘引通風機のモーターの冷却ファンをオペレーターが誤操作で停止してしまったため、2台ある誘引通風機が1台運転となり、半分まで緊急減出力だという。
とりあえずこちらに出番はない、ゆっくり仕事をすませた。
帰ると、話が電気に振られていて。曰く、
「誘引通風機1台ごとに、2台ついている冷却ファンの運転中のものを誤って停止したが誘引通風機本体が運転中なのに重要な冷却ファンが停止出来るようになっているのは怪しからん。早急に、本体が運転中は誤操作しても停止できないように改造すべきだ」
誤操作の擁護か、事故の落としまえか知らないが、そう云うのって言いがかりって云うんじゃない?
それを云い出したら、誤操作は全て機械のせいになる、同様のインターロックは一杯在る。全部直せと云うの?
まあ、誤操作できないシステムと言うのも、ある意味究極の形だろうし、なんといっても、それを考えてビルトインするのは断然面白いから、やってあげるけど、
「技術屋の矜持なんて、かなぐり捨てちゃってかまわない訳ね」
と言うことで、リレーシーケンスをチョッチョッと書いて、末永某に次期停止時に改造するよう依頼した。
こちらから回路図が出てきたことにも驚いたようだが、彼氏一瞥してシーケンスが冗長だと言う。
「sasayanのはリレー3個使っているがそんなにいらない。単純な回路だから1個で出来ますよ(やっぱり素人はだめだな。こういうのは現場たたき上げの俺たちにまかせてよ)」
そう来ると予想していたのでニヤッとして、「1ヶ月あるから時間は十分、ゆっくり考えて、出来たら教えてよ」
接点協調でやっぱり3個いると彼が納得したのは、1週間後。
それまで、ときどき覘くと「おかしい、そんなはずはない」と頭をひねっていた。
*** 2万アンベアのCT ***
取引用積算計のPCTの検定切れを迎え、電気計器検定所の出張検定を依頼した。
検定所の係官と、補助作業員が試験設備を運ぶ車で一緒に来所するという、計5名。
相手が相手なので、事業所迎賓館とも言うべきクラブ施設に宿泊手配し、一席設けることにする。
なんせ検定証書貰えなかったら、検定満了以降は○○○億の料金をやり取りする根拠がなくなる。
ところが、総務課代の若いの「クラブは海外の来賓などを迎えるのに作った。係官はしょうがないが、作業員・運転手はふさわしくない、宿泊分けてくれ」
別ルートから、出張検定の体勢を聞くと、出張検定はバンド仲間、検定係官から結線補助、運転手と上から下まで一心同体で全国やって来ている、分け隔てなんかすると問題だぞという話。
後で考えると検定係官5名と書いとけば良かったんだが、向こうから来たリストを宿泊手配にそのまま添付しちゃった。忙しかったので。
「昔、俺だって泊まったぞ、社員は寮泊なんだろう」
「それは、MITI役人と同行だったからじゃないの」
「じゃあ同行だったら運転手だっていいじゃないか」こんなに簡単には行かなかったが、とうとう前代未聞、補助作業員も運転手もご宿泊、慰労の宴もみんな同席、めでたしめでたし。
電気計器検定所は田町の裏にあったが、あるときもう一つ持込検定の物件があって行くと、一般には見せない検定所内部だが、Fさんを知っているなら、見せてくれるという。
Fという積算電力量計のオーソリティがいて、斯界の泰斗。ご本人から直接聞いたから間違いない。
電力量計の精度向上などで、力になったり、なられたりした仲なんだろう。検定所よりは金が使える。多分。
定年で関連会社Aに居て、先ほどの別ルートというのはこのルート。
大電流CT対応の、磁気相殺のためにリターン回路で囲まれたブスなどもあり興味深く見せてもらったが、ひとつ文句。
「お宅は今回○○事業所の2万アンベアのCTを検定してくれと言って来た、うちは1万アンベアしか検定装置がないのに如何するつもりだったんだ、電流を増やす時はちゃんと相談してくれなきゃ困る」
「それは申し訳ないことをしました、それでどうなりました?」
何の事は無い、1万アンベアの装置を2台パラで突っ込んだ。
要するに、必要なところにはちゃんと仁義を切っておけ。
*** 500元連立方程式 ***
一般的な事業規模当たり、元々半分程度の敷地に立っている設備を稼動させたまま、新設を追加・更新するという仕事をしたことがある。
始めると何処までも広がっていくので詳細は省くが、要するに250m×500mの敷地内で、次の様な工事をやることになったのである。
これは、針の穴にラクダを通すような工事計画の最終のものであるが、実現の可能性を求めて幾つもの手法をF.S.するはめになった。
「お前ら(2人)が居ると皆出来ると思ってしまう。そんな工事は出来ないと早めに投げ出せ。作業員を殺す気か」と言うような横槍も入ったものである。
F.S.のとばくちで「新号機は既設本館の南にすべきだ。いや北が良い」本社・現地のお偉いさんが、暫くの間真剣に口角泡を飛ばしていたが、
「どちらでもいい、とにかく実現出来る目処がついてから、そんな贅沢な論争してよ」
この最終計画においても、現在明らかな問題点、今後生じるであろう検討課題をリストアップするとちょうど500件になった。それも緊密に関連し合っている。
本社関連各部との現地でのキックオフの時、それらを説明しながらみんなの表情が硬いので、
「リプレース計画の成否はこの500元連立方程式が解けるかどうかにかかっている」といったら連立方程式のわかる人にはうけた。
みんなの表情が硬いのは「こんなのやるのー?」「こんなのできるのー?」と言う表情がありあり。
しかし「これは絶対不可能です、私下ろさせて頂きます」 と席を立つ人はいない。
実はこれをやる可能性が一番高いのは筆者だったが、残念ながら推進側の席でそれも計画立案・説明者。
途中で「私下ろさせて頂きます」とやったら、大うけだったんだろうが、そこまでやるサービス精神はない、500元連立方程式噺がせいぜい。
*** 工事仕様の妥当性 ***
「ここからここへ亘長も長いから電圧ドロップも考慮して、○○sqのケーブルが何本いるよ」、「配管ルートはこっちを迂回させなければならないから長くなる」等瞬々かわる工事仕様に対応して工事費の得失も同時に把握できるように電気工事・配管工事、後には小規模土木工事も含むパーソナル積算プログラムを作った。
工事仕様を入れれば、直ちに直工費がわかり、間接比率・諸経費率をいれれば工事費一式が出てくる。
プリンターの連続用紙をミシン目で破りあとは表紙をつけるだけ、そのまま予算書として通用させた。「書き直す時間なんかない、文句あるか」
勿論、たちまちキングファイルに一杯になっていく。
最近当時の若い人の名前を冠した古いフロッピーが1枚出てきて.xlsファイルに工事リストがあった。既設関連分だけで、始まりは1996/4、終わりは1999/4となっていて、360件ある。
下はリストの初めと終わりの部分であるが、これの計画 ・調整・手続、(自分の分の)工事管理が筆者の仕事だったんだぜ。
この既設切替工事費のヒアリングを受けるためT電本社に出向いた。
前もって資料は渡してあり、「厳い」という感触を持ったという窓口の先輩たちと、工事の困難さがどれだけ定量的に把握評価されるだろうか、と心配しながら行ったが、そもそもこの工事はなぜ必要かという質問はほとんど無く、主に仕様の妥当性をチェックされた。
またその決定の早さには驚いた。このころのT電さんは凄かった。
いわく「このタイプのコンベアはうちでは実績が無い、従ってお宅を信用して査定しません」
実はコンベアメーカーからT電の聴き取り調査があったことを予め聞いていたので「?」
「仮設貯炭場のケーブルSHVVは全部CVにしてください」
「当社の貯炭場内ケーブル仕様は難燃性なのですが」軽くこだわってみるが、
「当社の電気屋は全てCVでやると言っているので、それでやってください」軽くいなされる。
「ハハーッ」もうひれ伏すしかない。
他に、塗装の下塗り回数に対してだか査定されたが、枝葉の部分であり96%以上の妥結率。
「これで工事が出来る」ほっとしながら新橋のガードをくぐった。
*** 癖に۵Ⅱ ***
狭隘敷地内事業所継続稼動、新設更新計画の話題が続く。
既設は運開以降25年、灰処理装置・排水処理装置・排脱装置設置を含め幾たびかの増改造を経ており、ケーブルがざっと見積もって2万本、配管も大変な量になり、地中埋設物もかなり複雑になっているが、既設運転継続であるから、これらのうち vital important なケーブル・配管にボーリング・シートパイル・掘削工事で損傷を与えるわけに行かない。
また、切替方案の策定にも不可欠であるため、1年間大枚(現地決裁権限以上)かけて調査を決行した。
稟議書の現地決裁を受け、浅草線だけで済む本社に持ち込む途中、ふと思いついて念のためにと、市ヶ谷と靖国神社の中間にある関連会社Aに「こんな仕事があったんだが、今回申し訳ないけど、B社特命でやります」と仁義を切りにいったら、
「俺が今聞いたことになったら、上に怒られる」と、かっての大先輩。
文句言うんだったら、親会社がこれだけの大仕掛を始めようとしているんだからアンテナぐらい張っていてよ、こんなところでくつろいでないで。
情報は取りに行くもの。目が覚めたみたいにその後出入が激しくなった。
先行調査工事なんて想像しなかった?
工事施工図類から、リストアップし、図面に落としていくが、施工図(計画は承認図で徹底的にチェックされ、朱記訂正を繰り返した最後に施工図となるため竣工図≒施工図であり、従って直営工事・小規模工事で残っているのは施工図だけのことが多い)が残っている工事ばかりではない。現場合わせのやっつけ仕事も多いはず。
どうしても不明なものについては回路を停止し、開線・導通チェックを行って特定しようやく調査終了したが、それでもいざ工事に入ると、掘削した地中から図面にない不明配管が出てきたりする。
そのたびに呼び出され、切断しても良いか最終決断を迫られる。
作業スケジュールには、そのための調査時間などはみていない、もうすぐ日も落ちる。
場合によってはかつてその工事に携わったOBが構内協力会社にいたりして、忙しいだろうに直ぐに来てもらって、参考意見を求めた。
自信が無いのに切断することにして、その後数秒間何も起こらないのを待つ、あの緊張は癖になりそう。
(漏れ聞く話では、2,3年前遠州の某原発でも、地面を掘っていたら使途不明の太い電源ケーブルにぶち当たって、補修担当部署の偉いさんが青い顔で飛んできたんだってね。)
*** ムーズ河目前の戦闘シーン ***
既設貯炭場に建設するサイロ・新重軽油タンク・新水処理タンク建屋の設計から開始するため、既設貯炭場のボーリング調査が始まった。
ボーリングは貯炭の上から建築屋にやってもらえばいいと思っていたら「施工は現地」。また「貯炭の10m分にボーリング代は払いたくない」。
今なら10m分に係数をかけて何とかしろと言うところだが (と言っても櫓が安定しないんだよね)、ボーリング工事の設計なんて全く経験無し。
本社からリモコン操縦、設計書を送り付けられ、稟議起案と施工は現地の機電屋。
やむを得ず、貯炭にブルでグランドキャニオンさながらの溝を切りながら、その中で同時に3~4基ずつボーリングすることにするが、石炭は自然発火防止対策でブルで填圧し (押し固め) ているため、法面が安息角までゆるやかにならない。切り立った崖下の作業となる。
工事内容は事前に説明してたのに、始めて2日目、仕事が軌道に乗り始めた頃に安全担当所長代理が真っ青になって飛んできて「こんな危険な作業は認めない!」。
「ブルで押しても崩れないから、やむを得ずこの状態でやっているんです。ブルで崩れないぐらいだから、絶対大丈夫ですよ」
「地震が来たらどうする、みんな埋まってしまうじゃないか」
ブルの運転手に「炭の上に乗ってブレードで叩き崩してみて」というと絶対いやだという。
何とか頭を下げてやってみると、1回2回は恐る恐るのため崩れなかったが、段々慣れてきて強くドスンと叩きつけたら、ザシャー、ブルの乗っている下の炭まで大きく崩落。
10m下から見上げていてキャタピラーの下側が見えた。
バルジ大作戦の戦闘シーンも真っ青。生涯を通じてこの時以上のショックは記憶にない。
「もういい、もういい、もう止めて۵!」この既設貯炭場のボーリングから建設記録の撮影は始まった。
*** 土砂崩落実態調査の最適地 ***
所長代理の台詞が「大雨が降ったらどうする、みんな埋まってしまうじゃないか」なら発生確率はぐんと跳ね上がる。
積み上げただけの石炭の法面は45度だが、多量に含水した石炭の安息角は10度程度となる。
当該縮小貯炭場の貯炭高さと擁壁高さ・擁壁までの距離を次の様に特殊可燃物管轄の消防署に説明したことがある。
「h1の高さの擁壁からh2離してh3の高さに積めば、大雨が来て安息角10度となっても面積S1=S2であるから石炭は外部に流出しません」 (有効面積はh2分更に狭くなる)
土木学部で実規模での土砂崩落の実態研究を希望する学生がいたら、石炭の屋外貯炭場がお勧め、特に長崎のような東シナ海の暴風雨をもろに受けるところは、1ヶ月も待つことなく貴重なデータが豊富に入手できること請け合い。
円弧すべりの実態を知っていたら、災害時に良く見る路肩崩落の防止対策はあれじゃ不十分だと思うよね、だって一個の塊で崩落しようとする土砂同士を互いに固めてもしょうがないんじゃない。かえって円弧滑り助長の可能性だってある。
今度災害ビデオが出たら見てください。必ず円弧で滑っているから。
地震より確率は高く、これが起こったら大変だったろうが、当該ボーリング工事は防寒服でビデオに写った記憶から、冬場のことで大雨の季節ではなかった。
*** 500件の内の1つⅠ・Ⅱ ***
また、当時太平洋炭と三池炭十数%とを混焼していたが、縮小した有効面積6,000m2貯炭容積3万m3 (既設7日分)のスペースで2炭種運用は不可能だとして社内調整を開始した。
受入炭積み付け位置は2点、払出し口も一箇所だけ、ブルの走行さえ危ぶまれる中で三池炭は太平洋の10倍の高サルファー、ちょっとブレンドが多すぎると市との公害防止協定の規定 (燃料の硫黄分) を逸脱する、低すぎるとカロリー低下となる。
日本初の公害防止協定だから、何が何でも遵守しなければならない。コンプライアンス精神満々。
三池の入船は7日毎、1船5,000トン。6,000m2の1/7のスペースにそれだけ入ったらどういうことになる?
貯炭の変動をCGでシミュレーションすると三池と太平洋の積み付け高さの差が数メートルになる。「三池が太平洋側へ崩落するじゃないか」 (この時のCGはワイヤーフレーム表示。OpenGLやDirectXは未だない、windowsの出る前。初期のレンダリングソフトは持っていたが)
「三池を小型船で入れたらどうか」えらいさんの思いつき。
1日の消費量が5,000トン弱、夜間荷揚げ作業の出来ない当該港湾では離着岸の時間をとると、たとえ小型船であっても2隻の荷揚は1日では終わらない。従って実現性無し。
もうすぐ三池は閉山するという情報があり、「閉山するんだから、残りは炭鉱により近いT事業所で面倒見てよ」と主張するが、燃料部は「閉山しても山元には1年分位貯炭してある」。
(この辺もボーリング現地施工の件も、今考えると相手のたなごころの上で上手い具合に転がされていたような気がする。よく言えば純真、バカ。だって数十万トンの石炭を1年間も寝かして置けるか?って20年後に気づいてどうする)
強硬派を懐柔するつもりでもないだろうが、本社への陳情・打合せの後銀座でビール付昼飯奢られながら (三笠会館でワインを期待したんだが۵<昼休みだろ>)
「石炭審議会で消費計画は先の先まで決定している。三池の受入を止めたら、更新計画も潰れるよ」と脅される。消化に悪い。
ちいさなブル燃料タンクさえ設置スペースがなく「毎回ローリーで運んで下さい」とお願いしたが、
「道路はつぶされるのに、ブル車庫までどうやってアプローチするの?」
三池積み付け位置を僅か西にずらすと何とか可能性が開けることに気付き、機長15メートルの三池専用受入コンベアを既設受入コンベアの下に直角にぶら下げる形で追設することにした。
三池炭が焚けるならということで、そのコンベアの必要性を云々する人は居ない。本社への話も簡単に進んだ。
既設受入コンベア架台がその重量を支えられるかどうかは、何とかクリアーしたが、コンベア本体と据付重機を受入コンベア真下まで進入させるため、貯炭の約3分の一を減らすことが必要になり、約2週間受け入れを止めて炭を寄せ、進入路を作った。
サイロ工事エリアは貯炭場に食い込んでくる、仮設貯炭場は更に圧縮され、擁壁前後の工事高さ差25メートル、擁壁高さ7m。建築基準法の確認申請を要する擁壁高さの3倍。これも確か課題500件の内の一つだった。
調べてもらったら、建築基準法のは住宅の基礎擁壁などに関する規定であって今回のような仮設備の場合は、適用外とのこと。
「そうは言っても、毎日上を走り回るブルの運転手の命はどうなるの」
*** 500件の内の1つⅢ ***
計画では重軽油タンクも一時期既設新設同居する。消防法的には、同時に存在する既設重軽油タンクと、新設重軽油タンク両者にその間消火水を供給できるようになっていなければならない。
「旧タンクを空にして、しかる後に新タンクに貯油すれば逃げられないか?その間既設2基の同時停止期間を出来るだけ短くして」と検討を始めたが、そうは問屋が卸さない。
「旧タンクの廃止手続きは、空にしただけではだめ、水洗して可燃物が全く排除されたのを消防が検査終了してから、更に廃止の書類手続きにも時間がかかる」とのこと。
それが済んでから新油タンクの受入れ試運転になる。そんなに長く、既設2基とも同時停止で置いておけない。
やむを得ず新旧タンク両方をカバー出来る消火設備にすることにする。
新旧の間の配管距離700メートルで水利計算も大変である。消火ポンプ室がその中間に位置することが唯一救いといえば救いかと思っていたら。
「ところで新ボイラーには消火栓は要らないのか、100メーターだぞ」
「見学ルートなど設置して不特定多数の往来を認めたら必要だろうね」
「サイロ上部は当然必要だ」
と言うことで、水量だけでなく揚程も大きくなり、消火ポンプ室に入らない大きさのポンプの図面が出てきた。
消火ポンプはモーターの他に、停電対応でジーゼルエンジンでも駆動できるが、これがことの他大きくなり、大物搬入口から入らない。
建築に相談するが、「変更できない」
土木・建築は機電の上物ローディングデータをベースに設計するが、当然工事は上物より数ヶ月先行するため、仕様は早めに確定したい。
いつもせっつかれていた。
一方、恒久的新設備を設計する本社建設部は、この辺のタイミングを知ってか知らずか (好意的に解釈すれば、新設もスペースの問題はある訳で検討課題は多く、その影響は周辺設備にも及ぶこととなる) 最終決定だねとしつこく確認した後でも。場合によっては、型枠にコンクリートを流した後でも変更を要求してくる。
現地で額を突き合わせている機電屋はそのたびに土木・建築に頭を下げることになる。
工程的に「変更できない」? 仏の顔も3度まで、これ以上「変更してやらない」?
例によって暁の啓示。
「消火栓が横に広がるのと縦に伸びるのはタイミングが違うよね」
最初の新旧タンクをカバーする大容量低揚程ポンプと、本館・石炭サイロをカバーする少容量高揚程ポンプに分け、「低圧大容量消火ポンプ」「高圧小容量消火ポンプ」と2本立てなら大容量高揚程はさけられ何とか収まる。
「低圧消火ポンプは既設でつくり、高圧消火ポンプは基礎まで仕上げておいて新設側で作ってもらおう、既設重軽油タンク撤去後に不要になる低圧消火ポンプ容量は、新設排煙処理装置内の危険物消火栓などに使ってもらえば無駄も少ない」
*** 500件の内の1つⅣ ***
既設主ケーブルはOFケーブルで導体の周囲を絶縁油が覆っている、外周は金属である。
普通の電力ケーブルはCVケーブルといいビニール被覆で、現在では高耐圧の物も出来るが、既設当時はこの電圧ではOFケーブルしかなかった。
金属だから繰り返し応力で疲労する。何度か油圧が低下する症状が現れており、メーカーは「30年間毎日の電流増減の繰り返しで寿命を超えている」という。
このケーブルが色々なところで今次工事に絡んでいた。
何箇所か当該ケーブルの下を掘削する。
一部が陥没してギロチンにかけてはならない。
数ミリも低下し、不要な応力をかけて絶縁油を喪失させ、接地事故を誘発してはならない。
道路横断部は数トンのコンクリート中の電線管を通っている、掘削前の支持はどうするか。これもCG(名前を忘れたレンダリングソフト)で絵を描き、また工法もこと細かく決め、そのとおり施工してもらった。
また、既設の電気担当が「ケーブルの至近距離で矢板を打つが一回の衝撃で発生する数十回の振動波形は全て繰り返し応力にカウントされるのではないか」と心配している。
試験的にくい打ちを行い地面振動を測定したり、波形をFFTし、応力を想定して土木担当には無振動くい打ちを採用してもらったりした。(スペクトルにしたのは、地中減衰スピードが違うだろうから)
何ミリ何ミリという話をするので、土木屋さんには嫌われた。あるとき、
「俺たちの仕事の、掘削の許容誤差は20センチですぜ」
「いいじゃない、精度が一挙に50倍になる、good chance to broaden your horizon.」(カテゴリーの命名はここから来ている)
*** 500件の内の1つⅤ ***
「カステラで思い出すこと」ページ参照。
*** 500件の内の1つⅥ・Ⅶ ***
「「正真正銘の」ボイラー効率2%増」ページ参照。
*** 500件の内の幾つか、項目だけ ***
国のエネルギー政策も複数物体の同一時空占有問題もライフライン中間ルート喪失も土木掘削精度問題も建物強度確認申請も景観問題も作業競合問題も車両通行も地域開発計画も産業廃棄物処理も下水BOD問題も農業肥料生産も工事費リアルタイム積算も対行政交渉も300Km先の発電所の遠方監視切替も土地貸与交換も港湾荷役もFEM数値計算もFFT振動解析も法規・条例・基準へのcomplianceも自然現象・災害もアセス説明も実現性・経済性検討のため立案・比較・破棄された実際工事の数倍にのぼる工事計画も電気事業会計規則に定める規模毎の数千を越える設備の除却損の月別展開も失念する程おもしろかった4kv幹線ケーブル工事も、ハアッ、ハアッ酸素ボンベ!
*** 500件の内の1つⅧ・Ⅸ ***
新設循環水管敷設スペースが無く、既設道路をつぶしてそれに当てたが、実は循環水管だけでなく、新設の取水装置を設置するスペースも無かった۵
グランド (下は既設取水管) から市道をはさんだ隣接企業の産廃処理場7000m2に目をつけ、永久的に貰い受けることにし、図々しく交渉しにいった。
最初は「産廃処理場の無い事業所運用など考えられますか」と拒否されたが、「当方には一切そんなものありません」ということと、同業者の事業展開に協力ということで実現した。
これに伴い、市道の付け替えを行った
またある時、既設ボイラー建屋 (50m) から虎視していて「お隣さんのグランド広いなー」
事務所類の行き場もなかったため、隣接企業のグランドの端15mを借り受け建設事務所および既設事務所用地にすることにした。
借用期間は新1号建設中としたが、その間野球大会・運動会など狭いスペースしかない中で、さぞかし不自由をおかけしたことと考える。
お隣に居候が決まったんだから、事務所移転はそのまま引越しすれば良いようなもんだが、事務所には通信関連設備および何故か宮城にある事業所の遠方監視・簡易制御のための通信設備もあり、これらは既設本館計器室に移設することとなった。
作業条件は、
「切り替えに際し、宮城事業所休業は出来ない」
「遠方監視制御切替時の停止中は事業所サイトに監視要員を配置するが、人員不足のため夜勤は組めない。日勤の時間帯で全て完了してくれ」
「勝手なことばかり言いやがって」
また同時に他の通信設備の移設、ケーブル切替約60本もこなさなければならない。
なぜか、先行して施工できなかったラッピンングワイヤー工事約100本を実施の上、切替後のシーケンス試験(通信単体・制御盤取合い・ループ試験)まで無事に完了した。
しかし、ケーブル工事とラッピンング工事が同一盤内で、脚立の上下で干渉しあうため時間を決めてシリーズ作業としたが、この先行作業の終了が遅れ、後が決まっている後続の作業員とのあわやつかみ合いという場面もあったがこれを収拾した。甲だもの、楽。言うほどのことは無いんだが、巨視的にも微視的にも、如何に錯綜していたかの例示。
*** 500件の内の1つⅩ 頭上は無限のスペース ***
各メーカーには現説の冒頭で「基本的に自分の作業範囲しか工事用スペースは無いということで計画してください」と無理なお願いをした。
ところが、「こんなタイトな工事をやらせてもらえて、経験になるし、キャリヤにもなって有り難い。このプロジェクトは一緒にぜひ成功させたい」と言いきった某水処理メーカーの営業はかっこよすぎる。
純水用水処理装置は従来イオン交換樹脂法だったが、スペース的に有利なろ過膜方式を採用することにした。
水処理室は3階建てで1階が消火ポンプ室、2,3階が膜装置と電源・制御盤。
ただ膜式は濃縮排水が当時の技術で製造純水の20%発生する。その処理ルートをメーカーに描いて貰うと下のようになっていた。
一方建設工事中も公害防止協定の数値は一切増やしませんと市に約束しているが、排水処理装置放流枠100m3/日は守れるのか。コンプライアンス堅持は可能か。
現在協定値一杯一杯の排水実績があり、これに20%の排水(プラント補給水250m3/日位であるから50m3/日) のベクトルが加わると、どうしても放流枠を超えてしまう。
排水処理装置から回収タンクに回収できる水は水質および各タンクレベルの条件がある。
例によってアイデア
「排水の水質はどうなの」
「もとは工業用水で、純水にするため除去した成分が5倍に濃縮しているだけです」
水質は雑用水として問題ない、
「排水処理装置に迂回させる必要は全く無い、回収タンクに直接回収しよう」
排脱補給水として水の使用は常にある。
これにより、ポンプ・水槽および配管の削減が見込める、しめしめと喜んだのもつかの間、水処理メーカーよりクレーム。
「今回のタンク群は高すぎる、排水の圧力は0.5キロなので5mしか上がらない、タンクに直接回収は不可能」
「大丈夫、3階建てでタンクの縁は排水出口より3mしか高くない、充分流れる」
「出口圧が変動したら排水流量も変動して純水水質が安定しなくなる」
「大丈夫安定させてあげる。タンクの縁の高さは一定で、これを越したら水はタンク内に落ちるから、ここをサイホンにしなければ背圧は一定になる」
続いて身内からもクレーム。
「新設は乾式脱硫だから水の使用は微々たるもの、雑用水の使用量に純水製造量が左右されてしまうではないか」
「コンベア洗浄水・クリンカーホッパー補給水など雑用水使用量1日50m3位は十分いきますよ。それに近い将来排水量ももっと少なく出来るでしょう」
本社経由でメーカーに排水率低減のテストを直ちに始めてもらった。
これはアイデアという程の物ではなく、「メーカーさんの考えにも、ユーザーにとって更に合理化する余地が有るよ」程度の、あるいは威張るとすれば、「どんな課題でも片っ端から処理できた」と言う程度の例示だが、暁の啓示はその後も必要な時に浮かび、新たな問題が出てきても、軽く受け止められるようになっていた。
「解決策の無い問題は無い」などとこの手の場合のステロタイプ風には言わないが、「より合理的なところに必ず落ち着く」と確信するようになっていた。
「八方塞がりに見えても、頭上は無限のスペース」
これは今も変わらない。