一兆円の営業コンサルタント
余りにもこじ付けめくが、内容は事実なので数ページに亘る道草を容赦願いたい。また20年前の事なので固有名詞に確信はない♪
(人は誰でも文法を理解し、固有名詞から先に忘却と言う焚書の炎の中に投げ入れ始める♪貴方も経験があるでしょ)
GE系の発電機に界磁接地事故が発生した。
同期発電機界磁コイルはロータースロット内に絶縁体を挟みながら、複数の銅バーで形成されている。
一方タービンと発電機は停止中たわみを生じさせないよう常時ターニングを行っているが、このターニングに伴って銅バーがスロット内のギャップ、コンマ何ミリ分相対摺動を繰り返し、銅紛が発生→絶縁体をバイパス→界磁接地に至るというのである。WH系はガッチリ固めてあるからこれは無い。
したがって事故に至る寿命は、据付以降ターニングで何回回転したかによる事となるが、ターニング回転数はタービンシステムによって異なる。
タービン車室は高圧、中圧、低圧とあるが、これら全てが一本に串刺しされているタンデムコンパウンドは1秒1~数回転程度、タービン軸2本のクロスコンパウンドでは起動時に2つの発電機をどうやって同期させるかで分かれる。
ターニング中に人間が同期合わせするシステムでは10秒1回転程度。高速自動同期ではタンデムとほぼ同じ。
古い機械でも、余寿命を残している場合もあるし→クロスコンパウンド&ターニング中手動同期、新しい機械でも、寿命が来ている場合もある→その他
筆者のところの発電機は後者であり、至急対策する必要があった。
対策はスロットルから全てを出し、同一ターンを形成する銅バーを点付けするという至ってシンプルなものだったが、もうひとつ同種発電機で界磁取り出し部の曲がり加工部の傷痕に応力集中した折損・焼損事故もあり、その対策も含め大きな工事費となった。
本社契約部とT社営業が億のラインを挟んで攻防を繰り返していて、現地で発電機分解工事が始まっても契約が成立しない。
発電機からローターが引き抜かれ、1000トン船と、同じく1000トンフローティングクレーン (これはデカイ、積荷とは不釣合いだが、長崎の神の島の護岸工事から小遣い稼ぎにちょっと出て来たといっていた、船は砂利運搬の帰り舟、海上輸送シンジケートもうまく出来てるなと感心した) が待ち受ける物揚げ桟橋に向かって、山鉾のごとく静々と動き始めても契約が成立してない。
こちらも定期点検スケジュールがある、それぞれのステップごとに仕事を進めても良いかどうか契約部に確認をしながらここまで来たが、もう限界。
「今から船に乗せるんだけど、海に落ちたら船舶保険効いているの」
「T物流が保険に入っているから大丈夫です」
「その上位契約が成立してないんでしょ」
「もうすぐ契約するから船に乗せても大丈夫です」
よくわからないのでそのまま乗せてしまったが、途中の航路は、常に船長に船舶電話をかけて、無事を確認した。
T社工場に無事ついて修理中の、ローターの立会い検査申請がきて出向く。
うまくいきましたと言われた界磁取り出し部の曲り加工部を見ると、まだ若干傷状の痕が見える。
組み立て後の内部のこととて、こだわるのもどうかと思ったが、せっかくT社さん、工場内作業方法を洗いなおして再発防止対策と銘うち、カラー写真付でわざわざ九州の外れまで説明して廻っているのに、素人が気になるような傷を残すな、という意味も含めて修整依頼した。
事務所に引上げ途中、ふと1つの区画を見ると、発電機が組み立て中で、「ECNSW殿マウントパイパー発電所向け」との表示がある。
思い当たる節があり「ECNSWから十プラント余り発注された内の1つではないか」と聞くとその最後の発電機だという。
一挙に10年前の記憶がよみがえって来た。
昭和54年暮オーストラリア・ニューサウスウェールズ電力 (ECNSW。近年渇水だったそうだけど、湿式脱硫なんかやってたら大変だっただろうね) より日本の火力プラントメーカーH社およびI社グループに、ベイズウオーター炭燃焼火力二十数プラント発注するとの打診が有った。
ただし先方の懸念として「日本メーカー両者ともベイズウオーター炭燃焼の経験は無いはずであり、その特徴を燃焼設計にどのように反映できるかを明確にする事」との条件付きである。
H社は、
「膨大な異炭種の燃焼設計データベースを有しており、いかなる炭種の燃焼設計にも対応可能」と説明し、受け入れられた。
一方 I 社は、
「燃焼試験にて詳細データを採取し設計に反映したい。ECNSWは日本の○○社と技術提携しているはずであるが、○○事業所ボイラーは I 社の設計である。交通の便もよく、そのルートから共同燃焼試験依頼をしたらどうか」と提案し、ECNSWは文書でその旨依頼してきた。
その後半年に亘るベイズウオーター騒動の幕開けである。
試験条件は、
「ボイラー各部位の吸収熱量を測定するため、ヒートフラックスメーターを予め既設ボイラーに設置する。定格出力下でまず日本の代表炭、ついでベイズウォーター炭燃焼試験を行い、データーを採取。その差分を抽出し設計に活かす。他燃料の助燃・混焼は認めない」
というものである、フムフム、ここまではOK。
ところがFAXされて来たベイズウォーター炭の品位を見て驚いた。高位発熱量5,800kcal/kg、当所ではとてもじゃ無いが使い物にならない。
燃料比0.8台でこれも苦しい。思わず「冗談じゃないよ」
*** 燃料比 ***
=揮発分/固定炭素であり、この値が大きいほど揮発分経由で石炭に火がつきやすく燃焼しやすい
ボイラー燃料炭の設計発熱量は、高位6,200kcal/kgであるが、もともとボイラー能力が不足気味であったところに、当時低NOx調整のため炎は極限まで弱められており、高サルファーであるが高カロリーの三池炭十数%の混焼を行うことにより辛うじて定格出力を維持している状況であった。
従って、5,800kcal/kgの単味専焼で定格出力を維持するのはどう考えても不可能で、営業運転中の事業所でそのような暴挙は出来ない。
どうしてもというなら出力を下げるか重油助燃をする必要がある。
また設計燃料比は1.2であるが、低NOx火炎のためもありベイズウォーターの値では、石炭灰・石膏に未燃炭素分が多量に混入することになることが想定され、製品規格外で別途処理が必要となる。
*** 石膏 ***
湿式排煙脱硫装置の副製品、排ガス中の硫黄酸化物を石膏の形に固定化し有効利用する。タイガーボードなど。
何度か本社担当部の大御所たちと会議を持つが、返事はいつも「こうすれば実現できるという回答しか受け付けない。」ECNSWになんか面子があるのか。
また、I 社にとっても死活問題であり「専焼定格運転は可能」とそこいら中触れ回っているらしい。
そのとおりなら I 社をも巻き込んだ今までの能力不足の苦労が一挙に解決してご同慶の至りではないか。
I 社の理屈は
「ミルに予め粉砕した微紛を送り込み、その粉砕能力の一部をカバーしてやれば低カロリーでも定格出力が出るはずです」
「ミルの粉砕能力が低いのは事実であるが、それが能力低下の主原因ではないと I 社も言っていたではないか、粉塵対策は誰がやるのか、また防爆対策はどのようになるのか。粉塵炭爆発の怖さ知っているよね」 (筆者は学校の理科の実験で体験していた。すりつぶした微粉炭中を吹き上げ、その中でヒューズを飛ばしてドカーン。昔は中学でもこの位やったよ) 根拠も希薄なためうやむやになってしまった。
こう対策すれば専焼定格運転可能とは書かなかったが、専焼定格運転のためには表面水分を出来るだけ少なくする、未燃分対策はこうするなど種々の対策が必要というレポートになった。だってそれしか受け付けないって言うんだもん ۵
次いで兵庫・相生の I 社工場内のVIP用ハウスでのECNSW側との顔合わせ。
当社からは運転課長・運用担当(31歳の筆者)・計装担当の3名。ヒートフラックスメーターなるものの実態がいまいち理解できないので、同期の計装担当者に声をかけて同行してもらった。
名刺交換したECNSW側は、部長が工学博士、試験責任者も工学博士、総員7名であった。
I 社のシェフが腕によりをかけた豪勢な晩餐のさなかに、計装屋とECNSWの担当がヒートフラックスメーターに関して会話しているのであろう「カッパ-、コンスタンタン」と言うような単語が聞こえてくる。 (と言うことは、こちらはただひたすらご馳走と、灘の銘酒に集中している)
4月の定期点検期間を利用して試験準備工事、特にヒートフラックスメーターの取り付けである。
ヒートフラックスメーターは断面1平方センチ・長さ15センチ程度の円柱状、内部はサーモカップル (カッパ-・コンスタンタン) で、断面に受けた熱量による温度上昇をサーモカップルの起電力で捉えるようになっている。
これを100個余り、ボイラーのフィン付チューブのフィン平坦部に穴をあけ、指定された寸法だけ炉内に突き出すように設置して保温する。勿論工事は I 社自前である。またその起電力即ちヒートフラックスを1個1個切替えながら計測・記録するスキャナーを缶前に設置し、その間をケーブルで接続する。
1号ボイラーがたちまち針ネズミ状を呈していく。
そしていよいよ試験開始。
ECNSWの面々に加え、ヒートフラックスメーターのメーカー、米「エバスコ」の社員も来所し、これらとのコミュニケーションのため I 社手配の通訳までスタンバイ。
まず日本炭試験からである。定格出力可能なカロリーを手配してあるため問題はないと高をくくっていたら、2,3日でスキャナーの数値が9999とオーバーフロー表示するものが発生しだした。
素線の断線である。
原因究明のための会議で、ガムをクチャクチャしながらエバスコ社員が「指定した寸法を超えて炉内に突き出している可能性がある」などと言い出す。
施工指示書の寸法がエバスコの指定どおりであることを確認する。問題なし。
次いでのたまう「指示図どおり施工されてないのではないか」。
数百度で運転中のそれも保温材の中の状況を確認するのは大変であるが、何とか数本露出させバック寸法から寸法どおり設置されていることを証明する。
「日本側だけでなく、そちら側も問題点を解明する余地は無いのか」と質すと
「本国はただいま夜中である」
「すぐ動いたらどうか」
「明日連絡し、解答は速くても明後日のミーティングになる」
I 社側も何もいわない。
次回会議で
「日本製のスキャナーの切り替え時に大地間に過電圧が印加され、素線切れする可能性がある」と逆印加が想定されるというループ回路を黒板に書き始めた。相変わらずガムをクチャクチャ。
いつもは温和な計装担当も、さすがにそんなバカなと声を荒げる。
「まあまあ」となだめ、押し問答をしていても埒が明かないので、シンクロスコープを用意してスキャニング時の電圧波形を気の済むまで確認してもらう。
それらしい波形はなくきれいなものである。(日本製品なんだぜ)
このような状況で現場を走り回るシチュエーションにおいては、通訳も十分に対応できず結果として片言英語でコミュニケーションせざるを得なかったが、技術屋同士の技術上の会話であるからさほど痛痒はなかった。
やがて日本側の反撃が始まる。
計装屋が聞く「カッパ-コンスタンタン素線の太さはいくらか」
「0.3ミりである」
「それは、この温度帯で使用するにしては細すぎるのではないか」
「そんなことは無い、多くの実績がある」
ECNSWの火力部長もエバスコに入れ知恵されているらしく、「当該品はアポロの燃焼試験にも使用された信頼性の高いものである」と援護射撃。
ちょっと分析室に降りていって、一期先輩の化学屋を捕まえて見解を聞くと、「サルファー雰囲気中ではカッパーは弱い、特に高温では顕著だ原因はおそらくそれだ」という。
「それを云ってやって、云ってやって」というが会議には出てくれない、シャイ。
分厚いJIS規格表を広げ、ヒートフラックスメーターの規格は無いが、同等温度計の素線に関する日本の規格を見せる。JISでは倍の太さとなっている。
「日本ではこのような温度条件でカッパ-コンスタンタンを使用する場合、素線の太さは2倍のものを使うことになっている。」
「もともと石炭炎での使用実績はあるのか。アポロ云々というが高度に精製されたロケット燃料なんかきれい過ぎて問題外。石炭炎はダーティなのである」ッテヤンデーベランメー、神田の生れではなく高知だが、ほとんど巻き舌。
例によって2日後のエバスコ回答とECNSWの調整結果、断線前までのデータを最大限活用することとし試験続行となった。
*** 石炭炎はダーティなのである ***
それを封じ込め、処理するのが人智である。脱硝装置・電気集塵機・脱硫装置にてダーティ成分を除去し、外にはクリーンな排ガスしか絶対出さない。
念のため。
ECNSW部長殿はこの問題の処理のためか帰国したが、日本炭試験再開である。
試験責任者の博士殿が、米国ベーレー社製ボイラーフューエルマスター90%以上の動きを目ざとく見つけて聞いてくる。
「燃料が一杯一杯で厳しそうだが」
「そうだ、今日の燃料分析結果は後で出てくるがカロリーは6,300位にしてある、それでもこの程度だからベイズウオーター専焼はかなり厳しいと予想せざるを得ない、何度もそう言った」
実際に現地で見て厳しさを感得したようでもあり、前もっては知らされてなかったようでもある。
こちらも余り詳細には言わない、誰が傷付くか判らない。
ECNSWとの窓口、試験総括の技術部長代理Nさん、一体どうするつもりだったのか。ほんとに出来ると思っていたのか、「何とかなるわ」か、今でも判らん。
*** ボイラーフューエルマスター ***
ボイラー燃料制御信号、規定の設定値よりボイラーの圧力が下がり気味だと信号を増やす。
この信号が石炭・燃焼系の出力となり、風量にも連動する。90%以上は殆ど目一杯燃料が入っている。
やがて数日後「ベイズウオーター専焼試験は取りやめ、日本炭試験結果と、想定される差分を極力設計に反映させることとする」ということになり、どこかのコールセンターで出番待ちのベイズウオーター炭5000トンも買い手がついたらしく、オーストラリアに送り返されたとは聞こえてこなかった。
そして各社めでたくプラントを半数ずつ受注し、1年後の定期点検でヒートフラックスメーターも全て撤去され、ボイラーチューブフィンの穴も復旧された。
そして再び10年後、T社工場 ( I 社グループのタービン・発電機はT社が作る)
その夜は、このような苦労話で酒席を盛り上げ、「I 社からでもT社からでも、多額の営業コンサルタント料をもらってもバチは当たらないんだ」 (火力発電プラント10基だぜ、1兆円はいく) と冗談を言ったが、菓子折りをひとつもらって帰ってきた。
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